協働ロボットを検討し始めると、ほぼ必ず最初に出てくるのがこの疑問です。カタログには「人と並んで働ける」と書いてあるのに、実際に導入した工場の写真を見ると柵で囲われていることがある。どちらが正しいのか。
答えは「機種ではなく、システムとリスクアセスメントで決まる」です。ロボット単体に「柵不要」という属性があるわけではありません。
日本の法令上の原則
労働安全衛生規則の第 150 条の 4 は、産業用ロボットの可動範囲内で作業者が作業を行う場合、柵や囲いを設けるなどして接触による危険を防ぐことを事業者に求めています。つまり、原則は「囲う」です。
この原則には例外があり、厚生労働省の通達により、ISO 10218-1 および ISO 10218-2 に適合し、リスクアセスメントによって危険のおそれがなくなったと評価できる場合には、柵を設けずに運用できるとされています。ここで重要なのは、条件が ロボット単体ではなくシステム全体にかかっている という点です。
「システム」とは何を含むか
評価の対象になるのは、ロボットアーム本体だけではありません。
- エンドエフェクタ — 鋭利な爪や、把持力の強いグリッパは、それ自体が危険源です。アームが低速でも、先端が刃物なら安全ではありません。
- ワーク — 運んでいる対象物。高温の部品や、落下したら足を潰す重量物を扱っていれば、その危険は残ります。
- 周辺設備 — 隣の機械との間に挟まれる空間(挟圧点)がないか。
- 動作速度と力 — ISO/TS 15066 は、人体の部位ごとに許容される圧力と力の値を示しています。実測して閾値を下回っている必要があります。
つまり「協働ロボットを買ったから柵が要らない」のではなく、「このロボットに、このグリッパを付けて、このワークを、この速度で扱う構成」を評価した結果として柵なしが成立します。構成を変えれば、評価はやり直しです。
80W 規制という誤解
「定格出力 80W 以下なら産業用ロボットに該当しないので規制対象外」という話を聞くことがあります。これは労働安全衛生規則上の産業用ロボットの定義に関わる話で、確かに小型のロボットは定義から外れます。
ただし、定義から外れることと安全であることは別です。事業者には労働安全衛生法上の一般的な安全配慮義務が残りますし、80W 以下でも先端に危険な工具が付いていれば人は怪我をします。「80W 以下だから何もしなくてよい」という理解は危険です。
実務としてどう進めるか
導入検討の段階で押さえておくと後戻りが少ないのは、次の順序です。
- やらせたい作業を具体化する — 何を、どれだけの重さで、どの速度で、人がどこまで近づく前提か。
- 危険源を洗い出す — アーム、エンドエフェクタ、ワーク、周辺設備のそれぞれについて。
- リスクアセスメントを実施する — 自社で難しい場合は、ロボット SIer や第三者認証機関に依頼します。この費用は導入予算に最初から入れておくべきです。
- 必要な保護方策を決める — 柵、ライトカーテン、エリアセンサ、速度制限、あるいはそれらの組み合わせ。
- 記録を残す — 評価の根拠は文書として保管します。
「柵なしで置けるか」は、見積もりを取る前に SIer へ投げる質問としても有効です。安全評価まで含めた提案が出てくるかどうかで、相手の力量もある程度わかります。
まとめ
協働ロボットの価値は「柵が要らないこと」そのものではなく、柵なしを成立させられる可能性がある ことです。成立させるにはリスクアセスメントという手続きが要り、それには時間と費用がかかります。そこを見込んでいない導入計画は、たいてい後半で止まります。
この記事は法令・規格の一般的な解説であり、個別の設備が適法かどうかの判断ではありません。実際の導入にあたっては、所轄の労働基準監督署や専門機関にご確認ください。